1全助成金の大前提 / 雇用保険法
雇用保険の適用事業所になる
✓これが入口。ここなしで何もできない
厚生労働省の雇用関係助成金は、財源が雇用保険料です。そのため「雇用保険適用事業主であること」が全ての助成金に共通する大前提です。労働者を1人でも雇用した瞬間から、原則として雇用保険への加入義務が生じます。まだ加入していない場合は今すぐ手続きが必要です。
やること
管轄のハローワーク(公共職業安定所)に「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」を提出する。採用日から10日以内が期限。書類はハローワークで受け取るか、e-Gov電子申請でも可能。
これを整えると申請できるようになる助成金
- →キャリアアップ助成金(正社員化コース・賃金規定等改定コースなど全コース)
- →人材開発支援助成金(人材育成支援コース・リスキリング支援コースなど全コース)
- →両立支援等助成金(育休・介護・不妊治療など全コース)
- →働き方改革推進支援助成金(全コース)
- →特定求職者雇用開発助成金、トライアル雇用助成金、業務改善助成金……等、全ての雇用関係助成金
2全助成金の共通要件 / 厚生労働省共通要領
労働保険料をきちんと納付する
✓未納があると全ての助成金が不支給になる
厚生労働省の共通要領では、「支給申請日の属する年度の前年度より前のいずれかの保険年度の労働保険料を納入していない事業主には支給しない」と明記されています。つまり、過去の労働保険料に未納・滞納があると、どれだけ要件を満たしていても助成金を受け取れません。
やること
毎年6〜7月に届く「労働保険料の申告書(年度更新)」を期限内に申告・納付する。未納がある場合は管轄の都道府県労働局(労働基準監督署)に相談し、速やかに納付する。なお申請日の翌日から2ヶ月以内に納付すれば受給できる場合がある。
社会保険料(健康保険・厚生年金)の未納とは別物です。ここでいう「労働保険料」は雇用保険料と労災保険料のこと。社会保険料の未納も信用面で問題になりますが、助成金の共通要件として明示されているのは労働保険料です。両方きちんと納付することが重要です。
3多くの助成金の個別要件 / 労働基準法第89条
就業規則を整備・届け出る
✓「制度を就業規則に規定すること」が必須になる場面が多い
両立支援等助成金・キャリアアップ助成金・人材確保等支援助成金など、ほとんどの助成金で「支援する制度(育休・正社員化・健康診断など)を就業規則に規定すること」が個別要件として求められます。就業規則がそもそも存在しなければ、これらの要件を満たせません。
なお、常時10人以上の労働者を使用する事業場は就業規則の作成・届出が法律で義務(労働基準法第89条)。10人未満でも、助成金申請を見据えるなら整備しておくことを強く推奨します。
やること
就業規則を作成(または改定)し、所轄の労働基準監督署に届け出る。厚生労働省が「モデル就業規則」を無料公開しているため参考にできる(モデル就業規則ダウンロード)。内容に自信がない場合は社会保険労務士に依頼するのが確実。
就業規則整備で申請できるようになる主な助成金
- →両立支援等助成金(育休・介護・不妊治療など全コース)——育休取得制度・介護支援制度・不妊治療休暇制度などを就業規則に規定することが前提
- →キャリアアップ助成金(正社員化コース)——正社員転換制度を就業規則に規定することが必要
- →働き方改革推進支援助成金——年次有給休暇の計画的付与・勤務間インターバルなどを就業規則に規定することが要件
- →人材確保等支援助成金(雇用管理制度コース)——評価・処遇制度・研修制度・健康づくり制度などを就業規則に規定することが必要
4全助成金の審査書類 / 労働基準法第108条・109条
雇用契約書と賃金台帳を整える
✓申請時に必ず求められる書類——ないと審査できない
助成金を申請すると、都道府県労働局の審査で必ずといっていいほど「雇用契約書(雇用期間・所定労働時間・賃金等を明示したもの)」と「賃金台帳(支払賃金の実績)」「出勤簿またはタイムカード(出退勤の記録)」の提出を求められます。これらが整備されていないと審査が止まり、最悪不支給になります。
やること
① 雇用契約書(労働条件通知書)——全員と締結。書面で「雇用期間・業務内容・所定労働時間・賃金・休日」等を明示する。2024年4月から就業場所・業務の変更の範囲・有期雇用の更新上限等の明示が義務化されている点も確認を。
② 賃金台帳——労働基準法第108条で全事業主に作成義務あり。労働日数・労働時間数・残業時間数・支払賃金額を記録する。給与計算ソフトの出力でも可。
③ 出勤簿またはタイムカード——日々の始業・終業時刻を記録する。2019年4月から「労働時間の客観的な把握」が義務化されており、自己申告だけでは不十分になった。
「雰囲気で払っている」は絶対NG。口約束だけで雇用し、賃金台帳がない・出勤簿がない・雇用契約書がない——という状態では助成金の審査を通過できません。今からでも遡って整備し、今後は必ず書面で残す習慣をつけてください。
5健康経営・人材確保系助成金の要件 / 労働安全衛生法第66条
健康診断を毎年実施する
✓法律上の義務であり、助成金の要件でもある
労働安全衛生法第66条で、事業主は常時使用する労働者に対して年1回の定期健康診断を実施する義務があります。これは法的義務であると同時に、人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)で「健康づくり制度の導入」として助成対象になる取り組みでもあります。また、健康経営優良法人の認定要件の中核でもあり、助成金と健康経営認定を同時に目指す場合に効果が倍増します。
やること
毎年1回、全労働者に定期健康診断を受診させる。パート・アルバイトも週30時間以上勤務(正社員の3/4以上)の場合は対象。費用は事業主負担が原則。健診機関の予約・費用・結果管理を会社として整備しておく。受診結果は5年間保存義務あり。
健康診断実施で申請できるようになる主な助成金・認定
- →人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)——「健康づくり制度の導入」として就業規則に規定し、実施した場合に助成対象(制度導入助成+目標達成助成で最大187.5万円)
- →健康経営優良法人認定(中小規模法人部門)——認定要件の1つとして「従業員の健康診断の実施」が求められる
- →業務改善助成金——就業規則整備の要件確認時に健康管理状況も確認される場合がある
6働き方改革系助成金の必須要件 / 労働基準法第36条
36協定を締結・届け出る
✓残業させているなら必須。届出なしで残業させると労基法違反
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて従業員を働かせる場合、労使で「36協定」を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません(労働基準法第36条)。届出なしに残業させると労働基準法違反となり、「支給申請日の前1年間に労働関係法令の違反があった事業主には助成金を支給しない」という共通要件に抵触します。つまり36協定の未届のまま残業させていた場合、それだけで全ての助成金が不支給になるリスクがあります。
やること
労働者の過半数を代表する者(民主的な手続きで選出)と「時間外・休日労働に関する協定書(36協定)」を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出る。電子申請(e-Gov)でも可能。有効期間は最長1年なので毎年更新が必要。残業の上限は原則として月45時間・年360時間。
36協定届出で申請できるようになる主な助成金
- →働き方改革推進支援助成金(全コース)——交付申請時点で36協定の届出が要件。勤務間インターバル導入コースでは「36協定の締結・届出があること」が明示されている
- →業務改善助成金——最低賃金引き上げと設備投資を組み合わせる制度で、法令遵守(36協定含む)が前提
- →人材開発支援助成金(各コース)——労働法令遵守が共通要件のため、36協定未届での残業実態は問題になる