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ステーブルコイン&AIフィジカルワーク——僕らが本気で張る2つの領域

カード決済の3.25%は技術的に不要なコストだ。ステーブルコインとAI-Guided Physical Workは、金融と現場作業のインフラを根本から書き換える。シリコンバレーで見てきた起業家として、なぜ今この2つに張るべきかを語る。

柴 悠介

柴 悠介

CEO / Recustep Inc.

はじめに——なぜこの2つの領域に張るのか

シリコンバレーでAI開発に携わっていた頃から、僕が確信していることが2つあります。1つは「金融の中間コストは技術的に不要だ」ということ。もう1つは「AIは画面の中だけでなく、物理的な現場で人を助けるべきだ」ということです。

Y CombinatorのRFS 2026でもこの2つが明示されましたが、僕らリクステップがこれらに注目するのはYCに言われたからではありません。日本の中小企業と毎日向き合う中で、カード手数料3.25%が利益を食い潰している現実と、現場の人手不足をテクノロジーで解決できていない現実を、肌で感じているからです。本記事では、起業家・エンジニアとしての僕の視点から、この2つの領域の本質と、日本市場での具体的な勝ち筋を語ります。

Part 1:ステーブルコイン — 金融インフラを根本から書き換える

正直に言うと、2021年頃の暗号資産バブルには冷めた目で見ていました。投機が先行して、技術の本質が見えなくなっていたからです。でも2026年の今、ステーブルコインは完全に違うフェーズに入っています。「仮想通貨」ではなく「決済インフラ」としてのブロックチェーン——ここに至るまでの技術的な道のりを、エンジニアの目で振り返ります。

エンジニア視点で振り返るブロックチェーンの歴史

2008〜2013年:PoWとBitcoinの時代

2008年、Satoshi Nakamotoの論文がProof of Work(PoW)ベースの分散型台帳を提示しました。エンジニアリングの観点で革新的だったのは、ビザンチン障害耐性問題を経済的インセンティブで解決した点です。しかしPoWのスループットは約7 TPS(Transactions Per Second)。決済インフラとしては致命的に遅く、ガス代(手数料)も高騰しました。この時代のブロックチェーンは「動く概念実証」であり、実用インフラではありませんでした。

2015〜2020年:Ethereumとスマートコントラクトの登場

Ethereumはブロックチェーン上にチューリング完全な実行環境(EVM)を実装しました。Solidityで書いたスマートコントラクトがオンチェーンで自律実行される——これはエンジニアにとって「グローバル共有コンピュータ」の誕生を意味しました。DeFi(Uniswap, Aave, Compound)、NFT(ERC-721)、DAO(MakerDAO)が爆発的に生まれましたが、Ethereum L1のスループットも約15 TPSに留まり、ガス代問題は解決しませんでした。

2021〜2023年:L2・代替L1・PoSへの移行

Ethereum 2.0(The Merge, 2022年9月)でPoWからPoS(Proof of Stake)に移行。消費電力は99.95%削減されましたが、スループットの劇的改善はL2(Optimism, Arbitrum, Base, zkSync)に委ねられました。L2のRollup技術により、実効TPSは数千に到達。同時にSolana(最大65,000 TPS)やAvalanche等の高速L1も台頭。ここでようやく「ステーブルコインを決済インフラとして使える」技術的基盤が整いました。

2024〜2026年:規制整備とステーブルコインの実用化

技術的なスケーラビリティが解決された後、最後のピースは規制でした。GENIUS Act、CLARITY Act、そして日本の改正資金決済法により、ステーブルコインは法的に「決済手段」として位置づけられました。技術と規制の両方がようやく揃った2026年——起業家として言えるのは、このタイミングで動かない理由がないということです。

規制環境の整備:GENIUS ActとCLARITY Act

GENIUS Act(Guiding and Establishing National Innovation for US Stablecoins)

2025年後半に成立したGENIUS Actは、ステーブルコイン発行者に対する包括的な規制フレームワークを提供しました。100%の準備金要件、定期的な監査義務、消費者保護規定を明確化し、従来の「グレーゾーン」を解消しています。これにより、大手金融機関がステーブルコイン事業に参入するための法的基盤が整いました。

CLARITY Act

デジタル資産の分類を明確化するCLARITY Actにより、ステーブルコインが証券ではなく決済手段として法的に位置づけられました。SECとCFTCの管轄範囲が整理され、スタートアップが規制リスクを正確に評価できるようになっています。この法的明確性が、イノベーションを加速させる最大の要因です。

カード決済の覇権を終わらせうる革新的技術

Visa/Mastercardを中心とするカード決済ネットワークは、約50年にわたり消費者決済のインフラを支配してきました。しかしステーブルコインは、この構造を根本から書き換える可能性を持っています。エンジニア視点で、なぜこれが「改善」ではなく「置換」になりうるのかを整理します。

カード決済の構造的コスト:なぜ3.25%も取られるのか

クレジットカード決済の手数料は加盟店側で平均2〜3.25%。この手数料は、イシュア(カード発行銀行)、アクワイアラ(加盟店契約会社)、カードブランド(Visa/Mastercard)、決済代行会社という4層の中間業者に分配されます。さらに、チャージバック(不正利用時の返金)リスク、PCI DSS準拠のセキュリティコスト、国際決済時のクロスボーダー手数料(1〜3%追加)が乗ります。この多層構造は、1960〜70年代に設計されたレガシーアーキテクチャの産物であり、インターネット時代の技術水準からは明らかにオーバーヘッドが大きすぎます。

ステーブルコイン決済の技術的優位性

ステーブルコインによるP2P決済は、上記の4層構造をすべてバイパスします。技術的な比較を整理します。

比較項目カード決済ステーブルコイン決済
手数料2〜3.25%0円(JPYCの場合)
着金速度1〜3営業日(加盟店への入金)数秒〜数分(即時ファイナリティ)
中間業者4層(イシュア/アクワイアラ/ブランド/代行)0層(P2Pまたはスマートコントラクト)
チャージバック加盟店がリスク負担エスクロー型コントラクトで設計可能
クロスボーダー追加1〜3%+為替スプレッド国内と同一コスト
稼働時間銀行営業時間に依存24時間365日

なぜ「今」置換が現実的になったのか

これまでもカード決済への挑戦者は多数存在しました(PayPal、Alipay、LINE Pay等)。しかしこれらは既存のカードネットワークの上に構築されたサービスであり、根本のレール(Visa/Mastercardネットワーク)は変わりませんでした。ステーブルコインが根本的に異なるのは、レールそのものを置き換える技術だという点です。ブロックチェーンが決済レール、スマートコントラクトが決済ロジック、ステーブルコインが価値の媒体——3つのレイヤーすべてがオープンプロトコルとして再構築されます。GENIUS Act/CLARITY Actによる法的な位置づけの確定と、L2による実用的なスループットの実現が同時に揃った2026年は、この「レール置換」が本格的に始まる年です。

日本市場:JPYCが担う「カード離れ」の受け皿

日本の加盟店手数料は3.25%前後と先進国で最も高い水準です。特に飲食・小売の中小企業にとって、この手数料は純利益を直接圧迫しています。JPYCなら手数料は0円。しかも導入にシステム開発は不要——ウォレットアプリさえあれば、今日から使い始められます。入金サイクルも月2回(カード決済)から即時に変わり、中小企業のキャッシュフロー改善に直結します。Visaの手数料率3.25%は「当たり前のコスト」として受容されてきましたが、手数料ゼロの代替手段が存在すると可視化された瞬間、この構造は崩れ始めます。

DeFiとTradFiの架け橋

イールド付きアカウントの実現

ステーブルコインを預けるだけで米国債のイールド(4〜5%)を得られるアカウントが登場しています。従来の銀行預金では0.01%程度の利息しか得られなかった個人・企業が、ステーブルコインベースのアカウントで実質的な利回りを確保できるようになりました。これはDeFi(分散型金融)の仕組みを、TradFi(伝統的金融)のユーザー体験で提供するモデルです。

トークン化された実世界資産(RWA)へのアクセス

不動産、社債、コモディティなどの実世界資産がトークン化され、ステーブルコインで購入可能になっています。最低投資額が$100〜$1,000に引き下げられたことで、従来は機関投資家しかアクセスできなかった資産クラスが個人投資家にも開放されました。BlackRockのBUIDLファンドがトークン化された米国債で$20億以上を運用している事実が、この領域の本格化を象徴しています。

国境を超えた高速送金インフラ

従来の国際送金の課題

SWIFTを経由する従来の国際送金は、着金まで2〜5営業日、手数料は送金額の3〜7%が一般的でした。特に新興国への送金ではコルレス銀行のチェーンが長くなり、コストと時間がさらに膨らみます。年間$8,000億規模の海外送金市場において、この非効率性は大きな解決すべき課題です。

ステーブルコインによる解決

ステーブルコインを使った国際送金は、数分以内に着金し、手数料は0.1〜1%程度に抑えられます。特にB2Bの貿易決済において、ステーブルコインベースの決済プラットフォームが急速に普及しています。僕が注目しているのは、この送金インフラの上に構築されるフィンテックアプリケーション群——ここに日本のスタートアップが入り込む余地が大きい。

日本のステーブルコイン:JPYC——エンジニア視点での技術設計

JPYCとは何か

JPYC(JPY Coin)は、日本円に1:1でペッグされた日本発のステーブルコインです。JPYC株式会社が発行・運営しており、2021年の初期バージョン(前払式支払手段型)を経て、2025年に改正資金決済法に基づく「電子決済手段型」JPYCの発行を開始しました。これにより、JPYCは日本法上で正式に認められたステーブルコインとなり、法定通貨への償還が保証されています。

エンジニアが注目すべきJPYCの技術スタック

JPYCはERC-20トークンとしてEthereum上にデプロイされ、Polygon、Avalanche、Astarなど複数チェーンにブリッジされています。エンジニア視点で重要なのは以下の点です。

  • スマートコントラクトの透明性:コントラクトアドレスはEtherscanで検証可能。発行量・移転履歴がすべてオンチェーンで追跡でき、準備金の透明性が技術的に担保されている
  • マルチチェーン対応:Polygon上での送金ならガス代は1円未満。L2の低コストとL1のセキュリティを両立するアーキテクチャ
  • 手数料ゼロ:JPYCの送金・決済手数料は0円。カード決済の3.25%はもちろん、QRコード決済の1〜3%とも次元が違う。導入にシステム開発も不要で、既存のウォレットアプリだけで完結する
  • 改正資金決済法への準拠:資金移動業者ライセンスの下、KYC/AML対応が組み込まれた設計。技術的な分散性と法的なコンプライアンスを両立させている

JPYCが切り拓くユースケース

JPYCの実用化は、日本のブロックチェーンエコシステムにとって転換点です。具体的なユースケースとして、DAO(分散型自律組織)の日本円建て報酬支払い、NFTマーケットプレイスでの日本円決済、クロスボーダー決済(特に東南アジアとの取引)、ポイントプログラムのトークン化などが進行しています。USDCやUSDTがドル圏で果たしている役割を、JPYCが円圏で担う——YCのRFSが示す「ステーブルコインの規制中間地帯でのサービス構築」は、日本ではJPYCを基盤に展開できる領域です。

Part 2:AI-Guided Physical Work — AIは画面の外に出るべきだ

僕がリクステップで中小企業のDXを支援する中で痛感するのは、「AIの恩恵がデスクワーカーに偏りすぎている」ということです。ChatGPTもClaude Codeも、パソコンの前に座っている人のためのツール。でも日本の労働人口の半分以上は、工場や建設現場や物流倉庫で体を動かして働いている。AIが本当に社会を変えるなら、この人たちの仕事を助けなければ意味がない。YCがRFS 2026で「AI-Guided Physical Work」を掲げたのは、まさにこの課題への回答です。

リアルタイムAIガイダンスの仕組み

視覚情報のAI分析

作業者が装着するスマートグラスやヘルメット搭載カメラが、現場の視覚情報をリアルタイムでAIに送信します。マルチモーダルAIモデルが映像を解析し、作業の進捗状況、潜在的な危険、次に取るべきアクションを判断します。作業者のディスプレイやイヤホンを通じて、音声やビジュアルで次のステップを指示する仕組みです。

脳インプラントではなく実用的ウェアラブル

重要なのは、Neurallinkのような侵襲的技術ではなく、既存のウェアラブルデバイス(スマートグラス、スマートウォッチ、イヤバッド)とAIの組み合わせで実現できるということです。ハードウェアコストが$500〜$2,000に収まるため、企業が大量導入しやすく、作業者の心理的抵抗も低い。僕はここに、今すぐ事業化できる現実的なチャンスを見ています。

建設・物流・医療への応用

建設現場

配管工事や電気工事において、AIが設計図と現場の状況を照合し、作業者に正確な施工手順をリアルタイムで指示します。経験の浅い作業者でも熟練工と同等の品質で作業でき、手戻りや施工ミスが大幅に減少します。人手不足が深刻な建設業界において、即戦力化を加速する技術として期待されています。

物流倉庫

ピッキング作業において、AIが倉庫内のリアルタイム在庫状況と注文データを分析し、最適な移動ルートと取り出し順序を指示します。従来のハンディターミナルと異なり、音声指示やAR表示により両手が空いた状態で作業できるため、作業速度が30〜50%向上した事例が報告されています。

医療手術

外科手術において、AIが術前の画像診断データと手術中のリアルタイム映像を統合し、執刀医に切開ライン、血管の位置、腫瘍のマージンなどをARオーバーレイで表示します。完全自律型の手術ロボットではなく、人間の判断を補強するアプローチが、規制面でも臨床面でも受け入れられやすいとされています。

ハードウェア×AIの新潮流——物理世界を変えるスタートアップたち

ハードウェアルネサンス

2026年に入って、世界中のアクセラレーターやVCがハードウェア×AIスタートアップへの投資を加速しています。ソフトウェアだけでなく、物理世界を変革する企業に資金が流れている。AIがPC画面の中から飛び出して、現場のオペレーションを最適化する——この転換点を、起業家として見逃すわけにはいきません。

月面ホテル・自律型牧畜ドローン・倉庫ロボット

注目プロジェクトには、月面での居住施設建設を目指すスタートアップ、AIで牧場の家畜を自律管理するドローン企業、次世代の倉庫ロボティクス企業などが含まれます。一見突飛に見えるこれらのプロジェクトに共通するのは、「AIが物理世界のオペレーションを最適化する」という設計思想です。ソフトウェアの知能とハードウェアの実行力を統合するビジョンが、YCの投資テーゼの中核になっています。

僕らリクステップが、ここでやること

ステーブルコイン決済——手数料ゼロの世界を広める

JPYCの手数料は0円で、導入にシステム開発は要りません。ウォレットアプリがあれば今日から使えます。じゃあ僕らは何をするのか。答えは「認知を変える」ことです。中小企業の経営者がまだ知らない「手数料ゼロの選択肢」を伝え、導入のハードルになっている「よくわからない」という心理的な壁を取り除く。技術的には簡単なのに、知られていないだけで3.25%を払い続けている企業が日本中にいる。その状況を変えるのが、僕らの役割です。

現場AIガイダンスのソフトウェア開発

建設・物流・製造業の現場に、AIの力を届けるソフトウェアを作ります。バックエンドの推論エンジン、リアルタイムデータ処理、フロントエンドのAR表示——僕がシリコンバレーで10億ドル規模のプロジェクトに関わった経験が、ここで活きる。日本の現場は世界一優秀です。足りていないのは、その優秀さをAIで増幅するソフトウェアだけです。

起業家として——「作って終わり」は絶対にやらない

リクステップのシステム開発は「作って終わり」じゃない。御社の業務を効率化し、その先で同業他社にSaaSとして展開する。開発コストを二重で回収するモデルです。ステーブルコイン決済も現場AIガイダンスも、業界特化のSaaSとして横展開できる可能性を持っています。御社のために作ったシステムが、業界全体の課題を解決するプロダクトに育つ——僕はそこまで見据えて、一緒に作りたい。

結論——「技術的に不要なコスト」を、1つずつ消していく

カード決済の手数料3.25%は、技術的に不要なコストです。現場作業者が「AIの恩恵」から取り残されている状況も、技術的に解決可能な課題です。ステーブルコインとAI-Guided Physical Workは、一見異なる領域ですが、「既存インフラの非効率を、ソフトウェアで消し去る」という同じ思想で動いています。

僕がシリコンバレーから日本に戻ってリクステップを創業したのは、この国の中小企業が抱える「技術的に不要なコスト」を1つずつ消していきたかったからです。AI×DX、ステーブルコイン、現場AI——使う技術は変わっても、やりたいことは同じ。テクノロジーの力で、日本の中小企業の経営をラクにする。2026年は、その勝負の年です。

柴 悠介

Author

柴 悠介

株式会社リクステップ CEO。22歳。アメリカ・シリコンバレーでAI開発エンジニアとして従事し、10億ドル規模のプロジェクトに関与。国内外問わず多くのシステム・サービスをローンチ。その後、AI×DXの力で日本の中小企業を変革するためリクステップを創業。

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