理屈に従うだけの気に食わないやつばかりだ。

つくることが簡単になるほど、何をつくり、何を守るかが問われる。もっともらしい答えの先で、自分の名前で決断できるか。

公開日: 著者: 代表取締役・システムアーキテクト

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もっともらしい理由で、未来を見送るな

「前例がない」「費用対効果が読めない」「もう少し様子を見よう」。会議に出れば、正しいことばかり聞こえてくる。誰も間違ったことは言っていない。なのに、何も変わらない。僕が気に食わないのは、その光景だ。

理屈は必要だ。数字も、検証も、反対意見も必要だ。けれど、動かないための説明をどれだけ積み上げても、誰かの仕事が楽になるわけでも、挑戦できなかった人に機会が生まれるわけでもない。説明の整合性と、社会に対する仕事の価値は別物だ。

リクステップは、思想を仕組みにして証明する会社でありたい。理想を語って終わらず、人に使われ、事業として続き、次の挑戦を支えるところまで持っていく。そのために会社を経営し、そのために技術を使う。AIの時代には、この順番がいっそう問われる。

AIが答えを増やすほど、経営者の腹が見える

AIは、企画も、分析も、コードも、説明資料も生み出す。選択肢を比較し、もっともらしい提案を並べることは、これからさらに容易になるだろう。だからこそ、提案の上手さだけでは経営者の価値を示せなくなると僕は考えている。

どの未来を選ぶのか。何をやらないのか。売上が立つとしても、引き受けない仕事は何か。顧客に渡してはいけない危険は何か。そこに自分の言葉がなければ、会社は、外から与えられた評価基準を満たすだけの器になる。

リクステップの理念にある「数のない質は自己満足。熱のない数は空虚。」という言葉は、ここにつながっている。利益を軽んじるつもりはない。経済の構造に乗らなければ、教育も福祉も、文化も技術も持続しない。ただ、何を持続させるために利益をつくるのか。その問いを手放した経営にはしたくない。

攻撃が安くなる社会で、信頼は誰が守るのか

AIの恩恵を受けるのは、まっとうに事業をつくる側だけではない。英国NCSCは2024年の評価で、AIが偵察やソーシャルエンジニアリングを効率化し、経験の浅い攻撃者の参入障壁を下げると指摘している。すべての攻撃が自動化されるという話ではない。それでも、攻撃の準備や試行に必要な手間が減るという変化は、経営の前提を揺さぶる。

僕が連想するのは、戦争におけるドローンだ。安価な手段を繰り返し投入する側と、一度の突破も重く受け止めなければならない側。その負担の非対称性を、情報社会の問題として考えておきたい。これは軍事とサイバー攻撃を同一視する話ではなく、守る側の費用や判断の仕組みが、攻める側の変化に追いつくのかという問いだ。

便利なサービスを速くつくれるようになっても、顧客の情報を漏らし、仕事を止め、生活を壊してしまえば、その速さは誇れない。会社は社会という生き物の一部だ。自社の売上だけが伸び、その周囲の信頼が傷んでいく成長を、僕は健全だと思わない。

これからのセキュリティは、開発の最後に付け足す点検項目で済ませられない。何の情報を持つのか。誰にどこまで操作させるのか。異常にどう気づき、どう止め、どう戻すのか。事業の設計と一緒に決めるべき経営の仕事だ。守るべきものが曖昧なまま、便利さだけを広げてはいけない。

エンジニアは、書いた量ではなく引き受ける範囲で勝負する

AI時代にエンジニアが生き残るには、AIより速くコードを書くことだけを競っていては苦しい。僕は、つくる前に問いを立て、動いた後まで責任を持てる人の価値が高まると考えている。

その機能は本当に必要か。そのデータを集める理由は何か。その権限は広すぎないか。失敗したとき、誰が困るのか。AIが出したコードを読めることに加えて、顧客の現場を理解し、設計の前提を疑い、確かめる方法を用意できることが大切になる。

例えば、顧客情報を扱う機能なら、正常に表示できることだけで完成とは言えない。別の利用者の情報を読めないか、不要になった権限を外せるか、障害から戻せるかまで考える。これは特定の製品を入れれば終わる話でも、セキュリティ担当者だけに任せる話でもない。

そして、うまくいかなかった記録を次の設計に戻す。リクステップという名前には、反復して成長することと、一歩ずつ進むことを重ねている。一度うまくつくった人を英雄にするより、失敗から学び、次は組織としてうまくつくれる構造を残したい。AIを使って浮いた時間も、そのために使いたい。

リスクを取れない人に、舵を預け続けていいのか

社会が岐路に立ったとき、変化を理解しようとせず、責任を避けることに長けた人たちの、遅すぎる意思決定を待つ。それで本当に間に合うのだろうか。これは年齢の問題ではない。若くても前例に隠れる人はいるし、経験を重ねても学び続け、矢面に立つ人はいる。問いたいのは、決める立場にいる人の姿勢だ。

株主の声に耳を傾けることも必要だ。資金を託された責任から逃げていいはずがない。それでも、短期の数字を良く見せるために、守るべき情報や、現場の人の健康や、将来の信頼を削っていい理由にはならない。誰かに説明しやすい判断が、いつも会社の進むべき方向と一致するとは限らない。

反対される決断なら、根拠を示し、自分の言葉で説明する。分からないことは分からないと認め、小さく試し、間違っていたら変える。気骨は、他人の意見を聞かない頑固さではない。守るものを決めたうえで、手段を変え続ける強さだ。

挑戦する人が挑戦できる環境をつくる。その言葉を掲げるなら、経営者自身が、挑戦の負担を現場だけに押し付けてはいけない。権限も、時間も、安全に試せる仕組みも用意する。決断の結果から逃げない。理念が本物かどうかは、きれいな言葉ではなく、その配分に表れる。

これから必要なのは、気骨だ

AIを導入した会社になるだけでは足りない。AIで何を変え、何を変えずに守る会社なのか。それを、顧客にも、一緒に働く人にも、自分自身にも答えられる会社でありたい。

僕は、日本を新しい技術の受け売りだけで終わる場所にしたくない。積み重ねてきた技術、文化、倫理を、これからの社会で使える構造にして証明したい。大げさに聞こえるなら、まず目の前の一つの仕事で証明する。使われるものをつくる。守るべきものを守る。結果を受け止め、次の一歩を変える。

理屈は使う。数字からも逃げない。それでも、最後に自分の足で立つ理由まで、誰かの計算に預けるつもりはない。

これからの時代に必要なのは、理屈じゃない。気骨だ。

参考資料

本稿は代表・柴悠介の経営観を述べた論考です。AIと攻撃者の参入障壁については、英国NCSCの2024年1月24日公表の評価を参照しています。将来の見通しやドローンとの比較は筆者の見解です。

NCSC「The near-term impact of AI on the cyber threat」

柴 悠介

株式会社リクステップ代表取締役・システムアーキテクト。業務システムやWebアプリケーション、AIエージェントの設計・開発を専門とする。業務フローの整理からシステム設計、実装、運用改善まで一貫して取り組み、開発現場と経営の両面から、企業に知識と仕組みが蓄積するシステムづくりを進めている。

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