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宇宙・気候・インフラ:ディープテック領域が切り拓く「次世代の社会基盤」

宇宙、気候、インフラのディープテック領域は長期トレンドとして投資が続く分野です。主要トピックとリクステップの関わり方を整理します。

柴 悠介

柴 悠介

CEO / Recustep Inc.

はじめに

宇宙開発、気候変動対策、社会インフラの近代化——これらは「ディープテック」と呼ばれる、 科学技術の根本的なブレークスルーを事業化する領域です。ソフトウェアだけで完結するスタートアップと異なり、 長期的視点と大規模な資本、そしてハードウェアと物理世界への深い理解を要求されます。

かつてこの領域は政府と大企業の独壇場でしたが、状況は大きく変わりました。 SpaceX がロケット打ち上げコストを桁で下げたことで宇宙が「使えるインフラ」になり、 再生可能エネルギーのコスト低下と脱炭素規制が気候テックの市場を作り、 老朽化する社会インフラの維持管理が先進国共通の課題として浮上しています。 民間投資は年々増加し、技術は実証段階から実用フェーズへと移行しつつあります。

本記事では、宇宙・気候・インフラの3領域それぞれの最新動向と、 和歌山のスペースポート紀伊を起点とする近畿圏の宇宙産業の可能性、 そしてソフトウェア企業であるリクステップがこの巨大トレンドにどう関われるかを整理します。

宇宙産業:民間宇宙時代の本格到来

投資動向

宇宙スタートアップへの投資は堅調に続いており、2025年は第1四半期だけで約16億ドルが投じられました。 資金の向かう先は、ロケット打ち上げそのものから、その上に成り立つ「宇宙を使ったサービス」へと広がっています。 具体的には、数百〜数千機の小型衛星で地球全体をカバーする衛星コンステレーション、 農業・防災・金融に使われる地球観測データ、船舶や航空機・遠隔地をつなぐ宇宙通信などです。 打ち上げコストの低下により「衛星を打ち上げて事業をする」ことの損益分岐点が劇的に下がったことが、 この多様化を支えています。宇宙は研究開発の対象から、収益を生む事業インフラへと性格を変えつつあります。

注目スタートアップ

打ち上げ市場では、小型ロケットの Rocket Lab が SpaceX に次ぐ存在感を確立し、商業打ち上げの選択肢を広げています。 Relativity Space は機体の大部分を3Dプリンタで製造するという生産方式の革新で注目され、 フィンランドの Iceye は雲や夜間でも地表を観測できる小型SAR衛星で、洪水監視や保険査定という 具体的な商用ユースケースを開拓しました。 日本でも、デブリ除去のアストロスケール、月面探査の ispace、小型ロケットのインターステラテクノロジズなど、 世界市場で戦うプレイヤーが育っています。共通するのは「宇宙技術そのもの」ではなく 「宇宙を使って地上の課題を解く」ことを事業の軸に据えている点です。

日本:スペースポート紀伊

和歌山県串本町の「スペースポート紀伊」は、スペースワンが運営する日本初の民間専用ロケット発射場です。 小型ロケット「カイロス」の打ち上げ拠点として、衛星打ち上げの受注から発射までを短期間で行う 「宇宙宅配便」のようなサービスを目指しています。 発射場が近畿圏に存在することの意味は、単なる打ち上げ施設にとどまりません。 衛星や部品の製造、輸送、試験、打ち上げ運用、データ利用という宇宙産業のバリューチェーン全体が 地域に集積する可能性があるからです。射場を持つ地域は世界的にも限られており、 近畿圏の製造業・IT産業にとって、宇宙関連の仕事が「身近な商圏」になる転換点と言えます。

クライメートテック:長期トレンドは不変

投資動向

気候テックへの投資は、生成AIブームに資金が流れた影響で一時的に減速したものの、 クリーンエネルギー、蓄電池、省エネ・効率化といった「経済合理性がすでに成立している領域」は堅調を維持しています。 重要なのは、気候テックの需要が投資家のセンチメントではなく、規制と経済性に支えられている点です。 各国の排出量取引制度、企業への気候関連情報の開示義務化、そして太陽光・風力の発電コストが 化石燃料を下回る地域の拡大——これらは政権や流行が変わっても巻き戻らない構造変化です。 「環境のため」から「儲かるから・義務だから」へと動機が移ったことで、市場の持続性はむしろ高まっています。

AIと気候テックの融合

皮肉なことに、気候テックの新しい最大の需要源は AI 自身です。 生成AIの普及によりデータセンターの電力消費は急増しており、電力の確保と冷却の効率化は AI産業の成長を左右するボトルネックになりました。 データセンターの省エネ技術、排熱の再利用、原子力(SMR)・地熱といった安定電源への投資、 AIによる電力網の需給最適化など、「AIのための気候テック」という新カテゴリが急成長しています。 また、AIを気候側に応用する流れも本格化しており、気象予測の精度向上、衛星データによる排出量の監視、 素材・触媒の探索など、これまで計算量の壁に阻まれていた分野でブレークスルーが相次いでいます。 AIと気候テックは競合する投資テーマではなく、相互に需要を生み合う関係になりつつあります。

インフラ技術:社会基盤の近代化

データセンター

データセンターは「21世紀の発電所」とも呼ばれる戦略インフラになりました。 AI需要により建設ラッシュが世界中で続いており、日本でも千葉・印西や北海道・石狩などで 大規模な投資が相次いでいます。技術的な焦点は、GPUの高密度化に伴う冷却方式の転換(空冷から液冷へ)、 電力の安定調達と自家発電、そしてAIによる運用最適化です。 施設の運用自体も高度なソフトウェアの塊であり、電力・温度・負荷をリアルタイムに制御する 運用システムの需要が拡大しています。建設・電気設備・通信・ソフトウェアと裾野が広く、 地域の雇用と関連産業への波及効果が大きいのもこの分野の特徴です。

公共インフラのモニタリング

日本の橋梁・トンネル・上下水道の多くは高度経済成長期に建設され、一斉に耐用年数を迎えつつあります。 一方で点検を担う土木技術者は不足しており、「人手による定期点検」モデルはすでに限界です。 ここで主役になるのが、センサー・ドローン・衛星データとAIを組み合わせたインフラモニタリングです。 橋梁に取り付けた振動センサーで劣化の兆候を常時監視する、ドローン撮影画像からひび割れをAIが自動検出する、 衛星SARデータで地盤沈下を広域に把握する——こうした技術により、 「壊れてから直す」から「壊れる前に予測して直す」への転換が現実になりつつあります。 国土交通省も点検要領へのデジタル技術活用を進めており、制度面の追い風も揃ってきました。

大阪・近畿圏と宇宙産業

近畿圏には、宇宙産業のエコシステムを形成しうる条件が揃っています。 第一に、和歌山・スペースポート紀伊への地理的近接性。打ち上げ前の機体・衛星の輸送や試験、 関連人材の往来を考えると、射場から日帰り圏内にあることは実務上の大きな利点です。 第二に、東大阪をはじめとする金属加工・精密部品の産業集積。人工衛星「まいど1号」を生んだ中小企業の技術力は、 多品種少量・高精度というロケット・衛星部品の製造要件と本質的に相性が良いものです。

第三に、大学・研究機関と都市インフラ。京阪神の大学群は航空宇宙・材料・電子工学の研究人材を輩出しており、 関西国際空港や阪神港という物流インフラ、そして大阪・関西万博を契機とした先端技術への注目も追い風です。 宇宙産業は最終的に「ものづくり×ソフトウェア×データ利用」の複合産業であり、 製造業の集積地である近畿圏が、首都圏とは異なる「現場に近い宇宙産業クラスター」を形成できる可能性は十分にあります。 地域の中小企業やIT企業にとって、宇宙は遠い話ではなく、商圏に入ってきた新市場として捉えるべき段階です。

リクステップへの応用可能性

宇宙プロジェクト向け業務効率化

宇宙関連企業やその部品を製造する中小企業の現場は、意外なほどアナログな業務管理に支えられています。 部品ごとの品質記録、工程ごとの進捗管理、規格・認証文書の管理、官公庁向け報告書の作成など、 トレーサビリティ要求の厳しい宇宙産業ほど書類仕事が膨大です。 リクステップが手がける業務システム開発・RPA導入の知見は、こうしたプロジェクト管理・品質記録・レポート自動化に そのまま適用できます。「宇宙の専門技術」がなくても、「宇宙産業の業務効率化」では十分に価値を提供できるのです。 近畿圏の宇宙関連サプライヤーが増えるほど、この需要は地元の商圏で拡大していきます。

衛星データ解析との連携

地球観測データは年々オープン化・低価格化が進み、政府の衛星データプラットフォーム「Tellus」のように 無償で使えるデータソースも整っています。衛星データそのものの解析は専門プレイヤーの領域ですが、 解析結果を顧客の業務システムに組み込む「ラストワンマイル」には大きな空白があります。 例えば、建設会社向けに施工現場周辺の地盤変動アラートを業務システムに表示する、 農業法人向けに圃場の生育状況データを作業計画システムと連携させる、 物流会社向けに災害時の被災状況を配送ルート計画に反映する——といった統合開発です。 データ提供者と現場の業務をつなぐシステムインテグレーションは、受託開発会社の得意領域そのものです。

ESG/気候対応支援

脱炭素規制の影響は大企業にとどまりません。サプライチェーン排出量(Scope 3)の開示が広がるにつれ、 大手の取引先である中小企業にも「自社の排出量を算定して報告してほしい」という要請が降りてきています。 しかし中小企業には専任のサステナビリティ担当者はおらず、電力使用量や燃料データの収集すら手作業です。 ここに、リクステップの業務システム・RPAの知見が活きます。 各拠点のエネルギーデータの自動収集、排出量の自動算定、取引先指定フォーマットでの報告書生成といった 仕組みを中小企業向けの価格帯で提供できれば、「気候対応の事務負担」という新しい痛みに対する 実用的なソリューションになります。規制が需要を生み続ける、息の長いテーマです。

今後の展望

ディープテックは、生成AIのような爆発的な普及曲線は描かないものの、10年単位で確実に進行する長期トレンドです。 宇宙は打ち上げコストの低下とともに利用産業の裾野を広げ続け、気候テックは規制と経済性に押されて あらゆる産業の標準装備になり、インフラの予防保全は人口減少社会の必須技術になります。 そして3領域すべてに共通するのが「AIとの融合」です。衛星データの解析、電力網の最適化、劣化予測—— ディープテックの実用化のボトルネックだった「データはあるが解析が追いつかない」問題を、AIが次々と解消しています。

もう一つの注目点は、地域発イノベーションの可能性です。スペースポート紀伊のような物理的なインフラは、 首都圏一極集中とは異なる地域主導の産業集積を生み出すきっかけになります。 近畿圏の企業にとって、ディープテックは「シリコンバレーの遠い話」ではなく、 地元の製造業・自治体・大学と連携しながら関われる、地に足のついた事業機会になりつつあります。

結論

宇宙・気候・インフラは、いずれも「次世代の社会基盤」を形づくる領域であり、 規制・経済性・技術成熟という複数の追い風に支えられた長期トレンドです。 ロケットや衛星を作ることだけが宇宙産業への参加ではなく、発電所を建てることだけが気候テックへの参加でもありません。 これらの産業を支える業務システム、データ統合、レポーティング自動化といったソフトウェアの仕事は、 産業が成長するほど確実に増えていきます。

リクステップにとっての現実的な関わり方は、この「成長産業の業務を支えるソフトウェアパートナー」というポジションです。 宇宙関連サプライヤーの業務効率化、衛星データと業務システムの統合、中小企業の気候対応支援—— いずれも既存の強みの延長線上にあり、近畿圏という地の利も活かせます。 ディープテックの波が実用フェーズに入った今こそ、足元の商圏でこの巨大トレンドとの接点を作り始める好機です。

柴 悠介

Author

柴 悠介

株式会社リクステップ CEO / K-Drive株式会社 CTO(最高技術責任者)。シリコンバレーでAI開発エンジニアとして従事した後、日本に帰国。健康経営×AIの領域で、5,174社以上のサポートを支えるシステム基盤の設計・開発を主導。

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